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日本人らしさの遺伝子

日本人らしさとは、という問いがテーマのNHKのテレビ番組を先日見た。「びっくりはてな!?」シリーズの最新作で、まず初めに番組レギュラーのノーベル賞医学博士と地質学好きの超大物芸人と東大寺で写経をしていた若手人気女優(BS-TBS奈良ふしぎ旅図鑑)の三人がそれぞれ思う日本人らしさを述べた。誠実、勤勉、謙虚、協調性、礼儀正しい、まじめなどが上がる。だれが考えてもそういうところだがそのこと自体に特に意味はなかった。それはどこからくるのかその根本的原因はなにか、というのが本題だった。それは遺伝子の発現なんだという。

その遺伝子というのはふたつあって、ひとつは全人類で日本人男性の30%だけが持っているD-M55という遺伝子で、もうひとつは日本人が世界のどの民族よりも圧倒的に多く持っているセロトニントランスポーターS型遺伝子という遺伝子だった。それがどんな遺伝子なのかというと簡単に言えば、前者は「友達多い遺伝子」で、後者は「不安多い遺伝子(番組では不安遺伝子と言っていた)」ということになる。この二つの遺伝子が発現することで、火山噴火、地震津波などの自然災害の多い日本列島で生き延びて行けるように、誠実で勤勉で謙虚で協調性に富み礼儀正しくまじめな民族、日本人が誕生したというのだ。なるほど、そうだったのか、とぼくは思わなかった。ぼくが誠実でもなく勤勉でもなく謙虚でもなく協調性に欠け礼儀正しいとは言えずまじめでもないのに日本人だからそう思わなかったというのではない。なんにでも規格外は存在する。ぼくは番組の主張にはどこか話に飛躍があるように、いや、この話はちょっと変だと思った。日本人しか持っていない遺伝子、日本人に飛びぬけて多い遺伝子、それが日本人らしさを作っているとはぼくには思えなかった。日本人は自然を敬い畏れはしても忌むことはないからだ。

 ぼくは友達が少なくいつも不安を感じているがそれが遺伝子のせいだとは到底思えない。特に後者については絶対違うと思う。ぼくは30代の4年間を韓国で暮らしたがそのとき不安を感じたことがなかった。日本では生活や仕事や健康などに、特に将来に、漠然とした不安を感じていたが韓国ではそれらのことに、ぼくは外国にいるのに、まったく不安を感じなかった。意識さえしなかった。それはあの国の人々があるいは雰囲気がそうさせたとしか思えない。女房は、それはあなたの先祖は韓国人だからよ、と言う。そうかもしれない。しかし両親ともに韓国出身で韓国人の遺伝子をしっかり受け継いでいる在日二世三世は行動も言葉遣いも日本人と見分けがつかない日本人らしさを発揮している。今日本で暮らすぼくは漠然とした不安を感じている。だから「不安多い遺伝子」なんてものは存在しないのだ。それともぼくの「不安多い遺伝子」は韓国で暮らすと発現しなかったのだと言うのならこれは生物学における世紀の大発見だ。

 もうひとつの「友達多い遺伝子」は、まず友情は永遠不変ではない。友達という関係は幻想のようなものだ。あるいは誤解に依存している。だから幻想でも誤解でも目を覚まさないようにそっとしておくのが幸せというものだ。やはり「友達多い遺伝子」もないのだ。もし友達は遺伝子が作ってくれると言うのなら、いじめ、不登校、適応障害などこの世の面倒な人間関係由来の困りごとは遺伝子治療で解決すればいい。ついでに遺伝子を人工的に変異させ「みんな友達遺伝子」でも作ってしまえば人間の営みからあらゆる大小の争いはみんななくなる。そんなことがうまくいくとはもちろん思わない。


 それともうひとつ、出演していた大学の先生は日本人の花見は桜の美しさに自然災害への不安を意図的に一時忘れて刹那の享楽に身を置いているのだというようなことを言っていたがそれはちょっと違うと思う。日本人はそんな情ない民族ではない。桜が桜だから日本人が日本人だから日本人は桜が好きなのである。これは感性の話しであってそして情緒の話である。その先生は自然災害と無常観を結びつけていたが、そうだろうか、そうかもしれない、でもぼくは結びつけるなら不易流行がよいような気がする、そう、これこそが日本人らしさだと思う。 2026年1月15日 虎本伸一(メキラ・シンエモン)




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